top of page

PCデポの新ビジネスモデル、サポートではなく「教育」が「デジタル格差」で生じる年間12~18兆円の経済損失を価値に変える

ピーシーデポコーポレーション(PCデポ)の創業者である野島隆久代表取締役社長執行役員は2025年12月初旬、都内ホテルのイベント会場でデジタル化する社会の格差の解消に向けて、「ミリオンアカデミア」と題する新ビジネスモデルを発表した。「pcdepot2.0」とする大転換だ。説明するにあたり「12~18兆円」「ゲームチェンジャー」「1000万人アカデミア」の三つのキーワードを挙げる。同社が運営するスマートライフメンバーズクラブの会員、取引先企業など全国から総勢約700人が集まった。


PCデポの野島隆久代表取締役社長執行役員
PCデポの野島隆久代表取締役社長執行役員

年間12~18兆円の経済損失をアカデミア(教育)で価値に変える


 「ミリオンアカデミア」は、現在の会員である40万世帯、100万人からデジタルライフにおける様々な課題や要望を拾い上げてきて、PCデポに蓄積されたノウハウや知見がコアにある。今回、これを学問として構造的に体系化できたという。新ビジネスモデルは、これまでPCデポ内でクローズドにされていたプラットフォームとなる「アカデミア」事業を、一般に開放するという構想だ。これにより、将来的に会員を500万世帯、1000万人にする。


新ビジネスモデルの三つのキーワード
新ビジネスモデルの三つのキーワード

 野島社長は、デジタル格差がもたらす社会へのインパクトに危機感を強める。「生活者のデジタル格差がもたらす日本の経済損失は年間12~18兆円に上るとみています。GDP比で2.0~3.1%です。1軒当たりに換算すると、デジタル化の恩恵を年間10~15万円分受けられていないわけです。しかも損失は一時的なものではなく、持続的に発生しています」。


 年代を問わず、デジタル化による不正や犯罪は日々、人々の生活に押し寄せている。若い人のSNS依存やオンラインカジノの誘惑、社会人のDXの遅れによる生産性の低下、証券口座の乗っ取り、データ漏洩、暗号資産詐欺、SNSやアプリを通じたロマンス詐欺など枚挙にいとまがない。


 また、教育現場でのデジタル格差もある。高校生のPC所有率は30%程度で、そのほかはスマートフォン(スマホ)で学習している。学習環境のデジタル格差が、将来の所得損失や不安定就労、大学での補習コストなどを生んでいる。それだけではない。医療や労働、行政サービスなどにも影響を与えており、そうした様々な損失を合計すると年間12~18兆円と試算する。


隠れたコストのデジタル格差損失
隠れたコストのデジタル格差損失

 「損失の大きさを伝えたいのではなく、これまでお客様をサポートしてきたわれわれが、これを価値に変えられるのです。新ビジネスモデルのポイントは、サポートではなく、アカデミア(教育)で解決していこうということです」と野島社長は語る。


 「教育」とPCデポのビジネスモデルがどのようにリンクするのか疑問を持つかもしれないが、野島社長の話を聞くと納得できる。「今後も広がり続けるデジタル格差を食い止めるには、何かトラブルが起きてから対処する従来型のサポートでは間に合いません。人手不足がますます深刻化し、サポートが崩壊すると考えたとき、生活者一人一人を『教育』してデジタル化した暮らしに柔軟に対応できるようにしていくことが、一見遠回りに見えて実は近道なのです」。


 インターネット黎明期の1994年の創業時はPC販売が事業の柱だったが、2006年にサブスクモデル、13年に会員制モデルに転換するなど、とことんサポートにこだわってきたPCデポだからこそ説得力のある今後の「サポートの崩壊」だ。


発表会には700人以上が集まった
発表会には700人以上が集まった

「お茶の間」に学びの仕組みを導入して「ゲームチェンジャー」に


 もう一つのキーワードである「ゲームチェンジャー」は、学びや知恵の恩恵を「お茶の間」でも得られる仕組みをつくることだという。PCデポでは、これを学びのフレームワークとして体系化。これまでクローズドだったフレームワークを一般に開放する。


 スマホ一つで何でもできる時代だが、それと引き換えに人とのコミュニケーションの希薄化など大切なものを失っている。一つのことをじっくり考える時間や友人と顔をあわせて心から語り合う機会など、非効率的にみえる時間こそが贅沢なものなのかもしれない。


 根っこにある課題は、社会全体がスピードや効率を求めるあまり、自分の生き方をデザインする力を失いつつあるのかもしれない。自分がデジタルに操られているような感じの生き方だ。


 そこで野島社長が提唱するのが「スマートライフ」という新しい哲学である。単にデジタルで便利な生活を送るというものではなく、人間が主役になってテクノロジーを知恵でうまく使いこなしながら、心も体もすこやかに倫理的に生きていくライフスタイルを意味する。簡単にいえば、テクノロジーに使われるのではなく、人間が暮らしの中でテクノロジーを主体的に使いこなしながら主導権を取り戻す生き方だ。


スマートライフの哲学について解説する野島社長
スマートライフの哲学について解説する野島社長

 「マイナ保険証の利用率はまだ4割程度。今後、サポートで6割、7割にできるのかというと、サポートではできないという結論です。しかし、お客様のお茶の間に学びの環境をつくることができれば、お客様が自分で学んだり、他の人に教えたりするようになります。そうすれば7割、8割までいくのではないかと考えています」と野島社長は説明する。


 PCデポがこれまで蓄積して培ってきた膨大なサポートのデータから導き出した、生活者の暮らしの実態に基づいた考え方だ。


 「困ったことを毎日サポートするという付け焼刃では、デジタル社会で作り手も使い手もハッピーになれません。作り手も使い手も知恵を共有しながら、作る人は『こうすれば使いやすくなるのではないか』、使う人は『こんなに使いやすく作ってくれてありがとう』という世界が築ければ、お互いにハッピーになれます」


 18兆円の経済損失の多くは、スマホの使い方が分からないからではない。生活者がどのように判断していいかが分からないことに原因があると指摘する。「スマホの普及率は85%を超えているのに、マイナ保険証の利用率は4割。使い方が分からないからではなく、自分でどのように判断すればいいのかが分からないわけです」と野島社長は語る。


 「今の会員40万世帯、100万人が、500万世帯、1000万人になると、もっと社会が変わります。マイナ保険証の利用率が今よりも10%上がるかもしれないという仮説を立てています」。


新会社「スマートライフラボ」で生活者と開発者をつなぐ


 このミリオンアカデミアは、人、組織、システム開発の三つから具体化していく。これを担うのは、25年4月に設立した新会社「スマートライフラボ」だ。


 一つめの人については、年間2000人以上の資格ビジネスを構築していく。お茶の間におけるリテラシー教育で、会員40万世帯、100万人を支えているのは、デジタルライフプランナーという資格を持つPCデポの社員だ。この仕組みや体系、人材育成の方法を法人や組織に導入していく。


1000万人アカデミアを実現する「スマートライフラボ」
1000万人アカデミアを実現する「スマートライフラボ」

 二つめの組織では、一人一人のデジタルプランナーにとどまらず、企業や組織に、リテラシー人材や講師の育成を提供していく。例えば、5000人規模の企業に10人の講師を育成し、スマートライフリテラシー教育を担う部門を設置していくというイメージである。


 三つめのシステム開発では、開発者と生活者の知恵を結びつける。100万人の生活者の知恵をシステム開発の現場に落とし込み、伴走しながらシステムを開発していく。具体的に、そのシステムが本当に使えるかどうかを、100万人からなる実証ラボで生活者視点で評価していく。野島社長が語る「使う人も開発する人もハッピーになれる」仕組みの構築だ。


使う人も開発する人もハッピーになれる実証ラボのイメージ
使う人も開発する人もハッピーになれる実証ラボのイメージ

大学や法人向けに新会社「スマートライフユニバーシティ」設立


 ミリオンアカデミアの実現に向けて、同じく25年4月に設立したのが新会社「スマートライフユニバーシティ」である。大学向けに、文系や理系を問わない文理融合型の「スマートライフリテラシー講座」を提供していく。既に複数の大学からオファーを受けており、学部共通科目として特別講座がスタートする予定だという。さらに、スマートライフユニバーシティは、大学向けに同講座を他大学との差異化カリキュラムとして、学生を増やすためのコンサルティングも展開する。


 新会社2社の狙いについて、野島社長は次のように語る。


 「PCデポは、様々なサポートを通じた暗黙知を体系化しました。その枠組みは相当大規模なものになります。100万人の困りごとを6万時間かけて学問化、教材化しました。これを一般に開放しましょうということです。一つは、スマートライフラボでご年配やご家族でスマートライフリテラシーを学べる仕組みを提供すること。もう一つは、スマートライフユニバーシティで法人や大学への開放です。


 システム開発のコンサルティングの話がありましたが、極めて簡単な話です。例えば、アプリをつくる際にテストモードをいただければ、会員500人にテストしてもらえます。そのうちの300人はすぐに使えそうだ、200人はサポートしないと使えない、もしくは、サポートしても100人はやめてしまうなど。こうしたことが一瞬にしてわかります。PCデポが培ってきたノウハウと学習体系を外に出していこうということです」。


 「pcdepot2.0」や「ゲームチェンジャー」というキーワードからも伝わるように、サポートからアカデミア(教育)に大転換するPCデポ。野島社長が挨拶の冒頭に「今日は大風呂敷を広げます」と宣言したとおり、「ミリオンアカデミア」は壮大な構想に映る。


 しかし、ミリオンアカデミアのパンフレットの冒頭にある「みんなが先生、みんなが生徒」という生活者を1000万人つくることができれば、日本のデジタル格差から生じる12~18兆円の経済損失を縮小できるように思う。少なくとも、従来型の対症療法によるサポートが早晩にひっ迫することが予想される中、社会課題の解決に向けて具体的に一歩踏み出した1社がPCデポであることは特筆すべきことだろう。(BCN総研・細田 立圭志)


外部リンク


コメント


bottom of page